ダ ル メ シ ア ン の 毛 色 と 聴 覚 障 害

 1. ダルダル雑学〜毛色の成り立ち(遺伝子の影響)  2. 先天性聴覚障害〜毛色との関連・繁殖について
 3. 繁殖者の責任〜考えて行かねばならない事  4. 聴覚障害を持つ犬のトレーニングについて

序文 ダルメシアンと聴覚障害
 ダルメシアンの大きな特徴は白地に黒または茶(レバー)のはっきりした水玉模様という目立つ毛色ではないでしょうか。この派手な柄こそが他犬種からダルメシアンを特徴付けているのみならず、同じダルメシアンでも1匹として同じ柄のものがいない事からファンシャーにとって『これが家の子』という愛着をもたらしていると言えるのではないでしょうか。
 しかし、その毛色を作り出す遺伝子こそが聴覚障害と関連しているという事を知っていますか?ダルメシアンの聴覚障害は遺伝性のものです。耳の聞こえないダルメシアンが即不幸であるとは思いませんが、オーナーにとって躾などの面で難しい事が多いのは確かでしょう。繁殖する側の努力によって少しでも先天的な障害を減らしていく事が出来るのであれば、その努力を惜しんではいけないのではないでしょうか。
 純潔犬種において先天性の聴覚障害は仔犬全体の30%に見られるとの研究報告があるそうですが、その中の10〜12%をダルメシアンが占めるそうです。このことからも全犬種の中でダルメシアンが聴覚障害の非常に出やすい犬種であることはお分かり頂けると思います。ただ、実際にダルメシアンに接しているとそれ程『耳の聞こえない子』が多い様に思えないと言われるかもしれません。それは聴覚障害が必ずしも両耳に出るとは限らず、片耳だけ聞こえない場合日常の生活には殆ど支障がない為に気付かれない事が多いからだと思います。先天性の聴覚障害を持つダルメシアンのうちおよそ2/3が片側の耳だけ聞こえないと言われています。
1. ダルダル雑学〜毛色の成り立ち(遺伝子の影響)
 まずはダルメシアン雑学とでも言いましょうか、ダルメシアンの毛色の成り立ちについて書いてみます。
<毛色の成り立ち> Piebald遺伝子の影響 T遺伝子の影響
(図1)
本来的なダルメシアンの毛色
(黒又は茶)






(図2)
白毛が全身を覆う
ブルーアイになることもある

(図3)
白毛に丸窓が開けられ
地色の黒又は茶が見え
特有の水玉模様になる


 





(図4)
影響が不充分なため
白毛が全身を覆いきれず、
大きな斑模様が体の一部に残る


(図5)
白毛の部分に丸窓が開けられ、
(図3)同様水玉模様ができる


 ダルメシアンの毛色は『白地に黒または茶(レバー)の水玉模様』と書きましたが、実の所遺伝子的にはベースとなる毛色は黒または茶なのだそうです。
 ダルメシアンの毛色には大きく2つの遺伝子が関わっていることがわかっています。1つはPiebald遺伝子と言って白い毛色の分布や量に影響を与えるものであり、もう1つはT遺伝子と言って白色に丸窓を開ける作用を持つものです。本来的なダルメシアンのベースの毛色は黒か茶(レバー)であり(図1)、そこにPiebald遺伝子が影響すると白い毛が全身を覆う様に生えるそうです(図2)。ダルメシアンの新生仔はこの状態であり、本来のベースカラーは白毛に覆い隠されて『真っ白』で生まれてきます。生後、T遺伝子が作用し始め白いコートに丸い窓を開ける(Piebald遺伝子の影響を受けない部分を作る)為、そこからベースカラーの黒か茶が覗くこととなり、ダルメシアンの特徴的な水玉模様が出来上がるわけです(図3)。
 しかし、Piebald遺伝子の発現が弱いと白毛が全身を覆いきれず、頭部などに大きな斑としてベースカラーが残る事があります(図4)。その場合、新生仔の段階でもその大きな斑は出ています。生後、T遺伝子の影響で白毛の部分に水玉模様が作られるのは図3の場合と同様です(図5)。従って、図5のような大きな斑と、生後現れるスポットが成長と共に重なり合ってできる斑模様とは同じような外観であっても遺伝的には異なるものなのです。 もちろん犬の毛色を決定する遺伝子はここにあげた2つだけではないので、ダルメシアンの毛色も細かい事を言えばもっと複雑なのでしょうが、模式的には上の図のような仕組みになっています。
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